「ちゃんと寝てるのに疲れが取れない」「休みの日も何だかソワソワする」——そんな方に知ってほしいのが
「HRV(心拍変動)」という数値です。
心臓は一定のリズムで打っているようで、実は拍動と拍動の間隔が絶えず微妙に変化しています。
心拍数が同じ60でも、0.9秒間隔だったり1.1秒間隔だったりする——
この「間隔のばらつき」がHRVで、単位はミリ秒(ms)です。
[数値の意味と、自分でできるチェック方法]
◎「何msあれば正常か」への正直な答え
健康な成人の一般的な範囲は19msから75ms、平均は42ms前後というデータがありますが、
正直にお伝えすると、HRVは年齢・体力・体質による個人差が非常に大きく、他人と数値を
比べることにはほとんど意味がありません。
20代のアスリートと60代の方を同じ物差しで比べても仕方がないのです。
大切なのは「自分の数値が、いつもの自分と比べて高いか低いか」という、自分自身の基準線からの変化です。
いつもより明らかに数値が下がっている日は、体が「ちゃんと休めていない」というサインを
出している可能性があります。
◎Apple Watch・スマートリングをお持ちの方
iPhoneの「ヘルスケア」アプリを開き、「心臓」の項目から「心拍変動」を選ぶと、日々の推移がグラフで確認
できます。主に睡眠中とApple Watchの「呼吸」アプリ使用時に自動記録される仕組みなので、「起床直後の数値」など、なるべく同じ条件で継続的に見るのがコツです。
◎お持ちでない方
正直にお伝えすると、指で脈を測るだけでは、ミリ秒単位の正確なHRVの数値を出すことはできません。
ただし、HRVの正体である「呼吸に合わせた心拍の変化」自体は、手首の脈でも体感できます。
時計の秒針を見ながら手首の脈に指を当て、4秒吸って6秒吐く呼吸を3回繰り返してみてください。
・息を吸うときに脈が速く、吐くときにはっきり遅くなるのを感じる→自律神経の切り替えは元気に働いている
状態です
・吸っても吐いても脈のスピードがほとんど変わらない→自律神経が「オンのまま固まっている」可能性が
あります
数値化はできませんが、「切り替えがあるかないか」という質的なサインは、誰でも指1本で確認できます。
◎HRVが低いと、この先どうなるのか
「なんとなく不調」で終わる話ではありません。
慢性的にHRVが低い状態が続くと、日常的には疲れが取れない、
ストレスへの対処が下手になる(些細なことでイライラ、または落ち込みやすい)、
風邪をひきやすく治りも遅い、といった症状につながりやすいとされています。
さらに医療の領域では、心筋梗塞や心不全を経験した方でHRVが低いほど死亡率が高いというデータや、
心房細動・脳卒中などの心血管イベントのリスクが高まるというデータもあります。
「なんとなく不調」のサインの先に、心血管系の負担の蓄積が隠れている可能性がある、ということです。
◎逆にHRVが高いと、どんな良いことがあるのか
ストレスがかかってもすぐに立て直せる「回復力」がある状態だと言われています。
寝つきや眠りの質が良くなりやすい、ストレスを引きずりにくい、風邪などからの回復が早い——
こうした形で日常生活に現れやすく、長期的には心血管系の生涯リスクが低いというデータもあります。
[じゃあ、どうすればいいのか]
◎「ゆっくり呼吸」は、実は多くの人が間違ったやり方をしている
「深呼吸すればHRVが上がる」——これはよく聞く話ですが、見落とされがちな事実があります。
HRVを高める呼吸のペースには"あなただけの最適値(共鳴周波数)"が存在し、
それは1分間に4.5〜6.5回の範囲で人によって違うということが、心拍変動バイオフィードバックの研究で
分かっています。「4秒吸って6秒吐く」という数え方は、あくまで多くの人に当てはまりやすい"平均的な目安"
にすぎません。
自分の最適値を大まかに探るには、1分間の呼吸回数を4.5回・5.5回・6.5回くらいで数パターン試してみて、
「一番心拍がゆったり大きく波打つ感覚がある」ペースを探してみてください。
見つかったペースで1回20分・1日2回、2〜3週間続けると、自律神経の働き方に変化が出てくることが
研究で報告されています。
◎眠れないのに、どう眠ればいいのか
「睡眠不足だとHRVが下がる」と聞くと、「その自律神経が乱れているのに、どう眠ればいいのか」という
疑問が浮かびます。
答えは、自律神経が整うのを待って眠るのではなく、眠る前の"入り口"を物理的に整えることで、乱れたままでも
入眠しやすくするという発想です。
具体的には、寝る時間よりまず起きる時間を毎日揃える、朝起きて太陽光を浴びる、就寝1時間前はスマホ・PCの
画面を見ない、就寝90分前に40℃程度のお風呂に入る(シリーズNo.3後編もご参照ください)。
そして寝る直前に、先ほどの「自分の共鳴周波数での呼吸」を5分だけ行う。
これは自律神経が整うのを待つのではなく、呼吸という"外側からの操作"で強制的に副交感神経を優位にする
方法なので、乱れている状態からでも始められます。
◎飲酒は、どのくらいから影響が出るのか
Ouraリングのデータ分析では、飲酒があった夜は平均でHRVが12%低下することが示されています。
これは深酒した日に限った話ではなく、いわゆる"普通に飲んだ日"の平均値です。
「コップ1杯なら安全」という明確な閾値を示した研究は見当たりませんでしたが、量に応じて影響が大きく
なる傾向はあり、「少量なら影響ゼロ」とは言い切れないというのが正直なところです。
◎通勤で歩いている人は、それで十分なのか
HRV改善の研究で使われている運動は、基本的に「20〜30分継続して、少し息が弾む速さ」の有酸素運動です。
駅までの通勤歩行がこの強度・時間に達していれば十分効果が期待できますが、信号待ちを挟んだゆっくりめの
歩行や、10分未満の細切れ移動では、同じ効果を得にくい可能性があります。
目安は「早歩きで20分以上、途中で止まらず続けられているか」です。
◎栄養:オメガ3以外にも、心臓・循環に効く食べ方がある
オメガ3脂肪酸(青魚などの油)に加えて、カカオポリフェノールを含むダークチョコレート(カカオ70%以上)
や緑茶のカテキンが、血管の柔軟性をサポートする方向で研究されています。
またカリウム・マグネシウムは心臓の拍動リズムそのものに関わるミネラルで、海藻・バナナ・ナッツ類に多く
含まれます。
おやつをダークチョコレート数かけとナッツ一握りに置き換える、緑茶を1杯増やす、といった小さな置き換え
から始められます。
[施術法]
自分に合った呼吸のペースを見つけて練習しても、体の「オンオフの切り替え」が硬いままの場合、頭蓋周辺や
自律神経系統の巡りの滞りが背景にあることがあると言われています。
当院ではクラニオセイクラルによる自律神経へのアプローチもご案内しております。
数値に一喜一憂するだけで終わらせず、体の内側から切り替え力そのものを取り戻したい方は、お気軽に
ご相談ください。